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映画『ロスト・バケーション』レビュー

ブレイク・ライブリー主演『ロスト・バケーション』のレビューです。休暇で秘境のビーチにやってきた女性サーファーが凶暴な人食いザメに襲われる恐怖を描いたサバイバルホラー。岩礁に逃げ込んだ彼女は孤立無援の状況の中で何とか生き抜こうとサメに戦いを挑む。

The Shallows Poster

『ロスト・バケーション』

全米公開2016年6月24日/日本公開2016年7月23日/ホラー/86分

監督:ジャウム・コレット=セラ

脚本:アンソニー・ジャスウィンスキ

出演:ブレイク・ライブリー、オスカー・ジャネーダ、ブレット・カレン

レビュー

「B級サマームービー」というジャンルが存在するなら、『ロスト・バケーション』はそのなかでも良質な作品と言って差し支えないと思う。

主人公は水着姿の美女で、その相手役は獰猛なホオジロサメ。監督はホラーを得意としながらも求められればサッカー映画を撮ったり、リーアム・ニーソン映画を撮ったりもするジャウム・コレット=セラ。そしてクレジットを省略すれば80分ほどに圧縮できるコンパクトな上映時間。そのいずれの要素にも、質より量を重視したかつての二本立て映画の名残を感じることができる。作品の中身がどうとか言う以前の問題として、本作の骨格はまさにB級と呼ぶにふさわしい。『オースティン・パワーズ』のようなバカをおしゃれにするためのB級というポーズではなく、映画職人たちが、B級映画というジャンルで使われる要素を使用し、最良のB級的映画を撮ろうとした結果、『ロスト・バケーション』は生まれたのだろう。

ブレイク・ライブリー演じる医学生ナンシーはメキシコのどこかにある秘境ビーチを訪れたサーファー。そこは死んだばかりのナンシーの母親にとっての思い出の場所だった。親切な地元民の案内でそこに到着したナンシーは、二人組の先客がいたものの天国のように下界から隔離されたビーチでサーフィンを楽しむ。

そして先客も帰り、一人きりになったナンシーがもう一波乗ろうと沖に出たところ、眼の前に大きなクジラの死骸が流れ着く。腐臭を放つ死骸を前に困惑していると、突然海中から何者かに襲われてしまった。サメだった。ボードは真っ二つに割れ、片足に深い傷を負うも、何とか岩礁に逃げ込むことに成功するも、そこは陸地からも離れており、助けを呼ぶ声も届かなかった。そして獰猛なサメはナンシーを獲物と認識し、その岩礁の周りがぐるぐると回り続ける。

誰かが助けにくることを願って岩礁で待つナンシーだったが、徐々に潮が満ち始めてくる。黙ってサメの餌食になるか、それとも戦うか。ナンシーは決断を迫られる。

Shallows ban

全編ほとんどがブレイク・ライブリーの一人芝居で、水中のどこからサメが襲ってくるのかわからない恐怖を表情ひとつで器用に演じていた。

主人公のナンシーはサメが登場する前から用心深い女性として描かれている。それはメキシコで一人旅を続けるアメリカ人女性としては当然の態度なのだろうが、親切な地元民やサーファーに対しても必要な警戒を怠っていないことが冒頭からよく伝わる。この手の映画によくある登場人物の不用心が惨劇のきっかけとなるのではなく、あくまで相手は自然、用心したところでどうしようもない理不尽なまでの巨大な恐怖を相手にしている。おかげで途中からナンシーが本気で不憫に思えてくる。

そして本作最大の魅力とはとにかく「痛い」ことだ。サーファーにとっては垂涎の高波も、サメに襲われ孤立無援のナンシーにとっては凶器でしかない。か細い体が波にのまれて、岩肌にゴツゴツと削られるシーンはナイフで自分を切り刻むことと同じように痛々しい。音響も水面上と水面下に分けられ、水面下での波音の聞こえないなかでの岩肌への激突やサメ襲撃はかなり怖い。ネイチャーホラーとしては合格点なのだ。

他にもサンゴに刺されたり、クラゲに噛まれたりと踏んだり蹴ったりなナンシーだが、この自然の凶器ぶりは人間だけでなくサメにも襲いかかるため、自然がご都合主義的に描かれていないことも好感が持てる。

もちろん要約すれば「美人サーファーが人食いザメと対決する」だけの映画なのだが、後半に加速するスリリングな展開と、絶望的な状況のなかで決して諦めないナンシーが最後の決意を振り絞ってサメとの対決を決意するときに吐き捨てる一言は本当に最高だった。

冒頭で本作を「B級サマームービー」というジャンルのなかでご紹介したが、実際には『シャークネード』シリーズのようなB級作品ではなく、海上版『ゼロ・グラビティ』という言い方が正しい。絶望的な状況でも生き続けよとする女性の姿はそれが宇宙であってもビーチであっても美しい。

頭がボーとするほどにクソ暑い日本の夏にはもってこい作品。おすすめです。

『ロスト・バケーション』:

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ロスト・バケーション
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