ライアン・ゴズリング&ラッセル・クロウ共演『ナイスガイズ!』のレビューです。アル中でヘタレの私立探偵と豪腕の示談屋の凸凹コンビが、ひとりの少女の捜索から巨大な陰謀へと巻き込まれていくドタバタ・スリラー。監督は『アイアンマン3』のシェーン・ブラック。
『ナイスガイズ!』
全米公開2016年5月20日/日本公開2017年2月18日/クライム・コメディ/116分
監督:シェーン・ブラック
脚本:シェーン・ブラック、アンソニー・バガロッジ
出演:ライアン・ゴズリング、ラッセル・クロウ、アンガーリー・ライス、マット・ボマー、キム・ベイシンガー
レビュー
2012年、『ドライブ』で独特の存在感を示したライアン・ゴズリングがアカデミー賞のノミネートから落選した時、ツイッター上で「こんなバカなことがあるか!」と怒った男がいた。それはハリウッドでも指折りの問題児で、かつてはジョージ・クルーニーにも因縁をつけたことのあるリアル・ジャイアンことラッセル・クロウ。ライアン・ゴズリングもアカデミー賞にノミネートされたかったことは残念だったろうが、普段はラグビーのことばかりツイートしている暴れん坊が自分のことで急にキレ出したのだからきっと焦っただろう。
ちなみにライアン・ゴズリングはかつて路上の喧嘩を仲裁したことが話題になったことがあるが、ラッセル・クロウはそんなことはしない。パブの閉店時間を延長しろとごねた結果、喧嘩を始めるような男がラッセル・クロウなのだ。
しかしそんなラッセルもかつては『グラディエーター』『ロビン・フッド』『シンデレラマン』と肉体派俳優として大暴れしていたものの、最近は明らかにアクション俳優としては体が重くなったせいか、『レ・ミゼラブル』では同郷ヒュー・ジャックマンの影となるジャベールで満足したり、箱舟のノアおじさんになったり、『パパが遺した物語』ではピューリッツァー賞作家を演じるようになった。
違う、違う、そうじゃない、そうじゃないんだ、ラッセルは。
俺たちが見たいのは、平気な顔でいきなりぶん殴り、気の食わない 奴の腕なんて何本でもへし折るようなラッセル・クロウなのだ。
そして『リーサル・ウェポン』の脚本家でバディムービーの達人シェーン・ブラック監督による『ナイスガイズ!』には俺たちが見たかったラッセル・クロウがスクリーンに登場する。しかもその相手役に選ばれたのはライアン・ゴズリング。なんかワクワクするのだ。
ジャイアンとスネ夫だけだと『バットガイズ』、、
妻を亡くし娘と二人暮らしのアル中私立探偵のマーチ(ライアン・ゴズリング)は、痴呆気味のおばあさんから行方不明の姪っ子を探して欲しいと頼まれるが、それは先日死亡が確認されたポルノ女優だった。しかしおばあさんは死んだはずの姪っ子をこの目で見たと言い張り、マーチも仕方なく捜索を開始する。そしてアメリアという女性が消息を知っている可能性があり、彼女を探す。
一方、豪腕を振り回す示談屋のヒーリー(ラッセル・クロウ)はそのアメリアから自分を探し回る人を懲らしめるようにと雇われており、早速マーチの家に押しかけ、いきなりぶん殴り、有無を言わさず左手をへし折る。
これで本当は終わるはずだった。マーチがアメリアから手を引き、ヒーリーが報酬を受け取る。しかし事態はここから二転三転を繰り返すことになる。
アメリアは一体なぜ狙われるのか? そして死んだはずのポルノ女優が本当に生きているのか?
この些細な疑問はやがて一本の実験映画のありかを巡っての国家ぐるみの巨大な陰謀へと結びついていく。
と、ストーリーはさすがシェーン・ブラック作品だけあって、ノンストップで最初から最後まで一気に走りきる。物語が立ち止まりそうになると、さらに燃料を加えてアクセルを踏み込んでいく。一人の女性の失踪事件から、やがてはその背後にある巨大な陰謀へと繋がっていくという流れは、売春婦の自殺から国家規模の陰謀へと繋がっていく『リーサル・ウェポン』と同じだ。
しかしキャラクター設定は全然違う。『リーサル・ウェポン』は問題児リッグスと優等生マータフの凸凹だったのに対し、本作の二人はどちらも問題児。アル中と暴力男。どう転んでもタイトルにあるように『ナイスガイズ』にはならない二人だ。この二人、本当にどうしようもない。ライアン・ゴズリング演じるマーチは妻を亡くした悲しみを抱えているものの日常生活をアルコールとともに優雅に暮らすことで精一杯。口八丁で金目当ての仕事ばかりを優先する。そしてラッセル・クロウ演じるヒーリーはなんでも暴力で解決する男で、こちらも金にはうるさい。
ふたりとも自他共に認める金に汚い『バットガイズ』。仮に本作『リーサル・ウェポン』のようなシンプルなバディムービーだったなら、それこそ本作で再共演を果たすラッセル・クロウとキム・ベイシンガーが出演した『LAコンフィデンシャル』のようなハードボイルドなトーンで、『ブギーナイツ』の世界を舞台にするノワール調作品になっていたかもしれない。
でも本作はしっかりと笑えるコメディだった。二人のロクデナシに自らのロクデナシぶりを自覚させてくれる、三人目のツッコミがいるおかげだ。『リーサル・ウェポン』におけるマータフのように普通で真面目のナイスな誰かが。
彼らをナイスに変えた少女
ラッセル・クロウの不機嫌ぶりもいいし、ライアン・ゴズリングの空回りも爆笑ものだったが、二人の個性をドタバタ展開に違和感なく組み込むことに成功したのは、アンガーリー・ライス演じるマーチの一人娘の存在が大きい。主要キャラクターのなかでほとんど唯一まっとうな倫理観と正義感を持つ彼女こそが『リーサル・ウェポン』におけるマータフであり、暴力おやじとアル中の父親が「ナイス」な人間になるよう願ってくれているほとんど唯一の存在だった。
本作ではポルノ業界がストーリーに大きく絡んでくるし、銃撃の末に本来は打たれ死ぬ必要のない人々がバンバン死んでくという、露悪的な側面もある作品なのだが、だからこそ彼女のような真っ直ぐなキャラクターが映える。
特に物語後半からはラッセル・クロウとライアン・ゴズリングよりも彼女の存在のほうがストーリー展開に強い影響を与えていく。バディームービーというよりも、ジャイアンとスネ夫のコンビにしずかちゃんが付いてきたようなトリオムービーという感じ。
そして本作には最近はめっきり見かけることの少なくなった私立探偵ものとしての魅力もあるし、ハードボイルドには程遠い半熟くらいの人間たちが繰り出すケアレスミスの連続も小気味いい。
巨大な陰謀に巻き込まれていくストーリーはロマン・ポランスキーの『チャイナタウン』を彷彿とさせる一方でノンストップ・コメディとしても優秀で、まさにLAノワールの世界にシェーン・ブラック得意の凸凹要素を持ち込んだような作品。
興行的には成功しなかっただが、続編を期待したくなるような作品でオススメです。
『ナイスガイズ!』:
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