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『王様のためのホログラム』レビュー:トム・ハンクスが陥る中年の危機!

A hologram for the king poster

『クラウド アトラス』でもコンビを組んだトム・ハンクスとトム・ティクヴァ監督による『王様のためのホログラム』のレビューです。不況のためにIT企業に転職した主人公がサウジアラビアの国王に最新技術を売り込みに行くが、全てが上手くいかない。そんななか一人の運転手との出会いを通じて、 彼の人生は異国の地で少しずつ変わり始める。

『王様のためのホログラム』

全米公開2016年4月22日/日本公開2017年2月10日/ドラマ/98分

監督:トム・ティクヴァ

脚本:トム・ティクヴァ

出演:トム・ハンクス、アレクサンダー・ブラック、サリタ・チョウドリー、シセ・バベット・クヌッセン、ベン・ウィショー

『王様のためのホログラム』:レビュー

アラブ世界に滞在経験のある方なら一度は「インシャアッラー」という言葉を耳にするはず。「アッラーが望むとおり」という意味の言葉で、とにかく色々な場面で使用される。ホテルに何かを頼めば「インシャアッラー」、仕事でアポイントを取れば「インシャアッラー」、いつ目的地に着きそうかドライバーに聞けば「インシャアッラー」、、、、ミスをしても、遅刻しても、約束を反故にしてもそれは「アッラーの望むとおり」だったのだと言われればこちらも反論しようがなくイライラは増していくのだが、この言葉には別の面もある。

例えば親切にしてもらったとき「ありがとう」と伝えれば相手は大抵笑顔で「インシャアッラー」と返してくるし、こちらがミスなんかをして落ち込んでいると「インシャアッラー」と励ましてもくれる。

この一言がいろんな場面で使われることだけでもムスリムにとってアッラーが中心なのだということがよくわかる。

異国で経験する中年の危機

トム・クルーズ演じるアランはかつては自転車メーカーの重役だったが中国などの新興企業の台頭もあり会社は整理されてしまった。加えて妻と離婚することになり家も失ってしまう。それでもIT企業の営業マンとしての転職することができた彼は、ホログラム・テクノロジーをサウジアラビアに売り込むために砂漠のオアシスに長期出張を命じられた。

しかしそこはアメリカと何もかもが違うアラブの世界。アポイントメントはことごとく反故にされ、ストレス発散のためにビールを飲もうと思っても法律で禁止されている。仕方なくふて寝でも決め込もうとしても背中にできたコブが気になって寝られない。そのせいで寝坊してホテルから仕事場までのシャトルバスには乗り遅れてしまう。

仕方なく呼んだ個人タクシーのドライバーがこれまた変な奴で、英語は達者なのだが女性問題を抱えていて報復として車に爆弾が仕掛けられているんじゃないかとエンジンかける度に冷や汗をかく。しかも車中ではシカゴの甘ったるいラブソングを大音量でかけたりするから、アランの機嫌は底なしに悪くなる。

そしてとうとうアランの堪忍袋の尾が切れる、、、、しかし、それは同時にアラン自身が自分の本当の生き方を考えるきっけかでもあった。

ということで物語そのものは「ミッドライフ・クライシス」と呼ばれる中年の危機問題を描いている。中年の危機は映画の題材としては珍しくなく、『アメリカン・ビューティ』や『ロスト・イン・トランスレーション』、アニメでは『Mr.インクレディブル』のパパもまさに中年の危機に陥った人物だった。

それまでバリバリ働いてきた男性が、社会的にもそして家族的にもこれまでとは違う役割が求められる一方で、体力は衰え将来への不安ばかりが膨らんでいく。これからの人生にやりたいと思うことはどんどんと明確になっていくのに、それを達成するための時間だけは確実に少なくなっていく現実。理想とその現実の乖離が肉体的な敗北感を伴って襲ってくるのが、おそらくこの病の症状なのだろう。まだその年齢には達していないが、なんとなく憂鬱な気分になるだろうことは想像できる。そして想像するだけ憂鬱になる。

この中年の危機を引き金に、異国の地で何もかもが嫌になったアラン。しかしこの「何もかもが嫌になる」ことで彼は生まれ変わることになる。

将来なんてインシャアッラー

アランはなぜ中年の危機に陥ったのか、そして、どうしても異国の地で堪忍袋の尾がスパっと切れてしまったのか。

この二つの疑問はそれぞれ独立した問いの一方でその答えはほとんど同じだった。

社会、制度、周りの目、常識、ステレオタイプ、、、といった目には見えないけど社会のなかに確実に存在する同調圧力がもたらすストレス。中年の危機とは、結局のところ、「自分はこうあるべきだ」という理想像にこだわった結果、現実がそこに追いつけなくなった状態を指す。そして異国でのストレスもまた「自分の国ではこうだった」という独りよがりの常識を頼りに、ステレオタイプの文化理解では現状認識が追いつかなくなった状態と言える。

アランは陽気な運転手と、背中にできたコブの手術を執刀した女医という二人のサウジアラビア人と出会うことで、この「自分はこうあるべきだ」という自己脅迫と、「自分の国ではこうだった」という硬直した他者理解から抜け出すヒントを手にする。

つまりは「インシャアッラー」の意味を彼自身が理解し、使えるようになったのだ。それは無責任な態度の表れでもなく、言い訳もない、知らぬ間に背負わされてきた重荷を放り出すことだった。

映画の前半部のどんずまり感から一気に淀みなく流れていく後半の展開はいささかドラマチックすぎるように感じもしたが、トム・ハンクスの安定感のある演技と、個性的な脇役たちのおかげで、うまく物語の開放感が演出されていた。特に砂漠のシーンから終盤に登場する海のシーンへの展開はストーリーと相まってすっきりできる。

現在の映画界の傾向として本作のようなストレートなドラマ映画はスタジオ側が製作を嫌うようになっており、そういった「映画界の常識」に対しても緩やかなカウンターになっている。

中盤にはドキドキの潜入シーンがあったり、終盤には別の意味でドキリとするシーンもある。小品なドラマ映画としておすすめしたい。

『王様のためのホログラム』:

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Hologram for the king

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王様のためのホログラム
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