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映画『VR ミッション:25』レビュー

バーチャルとリアルが共存する仮想空間で画期的VRシューティングゲームの体験会に参加した8人の男女の姿を描くSFアクション映画『VR ミッション:25』のレビューです。ゲームだと思っていた仮想空間に秘められた周到なる罠。低予算ながらもアイデアが冴える作品。

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(C)The Call Up Limited 2015

『VR ミッション:25』

日本公開2016年11月19日/SFアクション/90分

監督:チャールズ・バーカー

脚本:チャールズ・バーカー

出演:マックス・ディーコン、モーフィッド・クラーク、アリ・クック

レビュー

VR元年と呼ばれる2016年にはPSVRに代表される自宅でバーチャル体験が可能なデバイスが発売となり、特にゲーム業界はその潮流を逃すまいと各社がこぞって新商品の開発に乗り出している。本作『VR ミッション:25』はそういった時代の流れに敏感に反応し、「もうすでにこんな実験が本当に行われているのかもしれない」という現実世界とスレスレのパラレルなリアリティを描いた秀作だった。

物語は最新型バーチャル・リアリティゲーム「ザ・コール・アップ」の体験版に参加する男女の姿を描いている。互いの素性も知らず、優勝すれば10万ドルという破格の賞金と最先端のゲーム体験を求めて参加した若い8人の男女は、ある日、「ザイバツ・コープ社」が入った高層ビルの一室に集められる。

ゲームオタク、元軍人、看護師、移民、など多様な参加者たちだったが、それぞれに共通するのが「孤独」だった。

そんな彼らが優勝賞金につられて参加したゲームの体験会。閑散としてビルの一室にはそれぞれのニックネームが胸に刻まれた特製のスーツとヘルメットが用意されていた。それを身につけると、完全没入型の仮想空間内に入ることができた。

仮想空間内に入り込んだ8人は、突如現れたバーチャルな「鬼軍曹」によって「ゲーム」の概略を説明される。曰く、このビルはテロリストによって包囲されている。生き残りたければ武器を持って、地上まで降りろ。しかし各階には敵が待ち受けており、そのミッションをクリアしなければ次の階に行くことができない。

用意された銃を撃てば現実と同じような反動まで感じることができる。参加者はこのゲームの完成度に興奮しながらも、やがてこのゲーム自体が途中で辞めることのできない「リアル」な戦闘であることを知る。銃を撃てば反動を感じるのと同じように、銃で撃たれれば同じ痛みを感じる。そして血が流れれば、それ相当のリアルなダメージが体に加えれら、やがて死んでしまう。

ゲーム自体が何者かが仕掛けた罠だと気がついた彼らだったが、もう遅かった。この「リアル」な戦闘を終えたければ、このゲームをクリアしなければならない。こうしてバーチャルとリアルの境界がない空間で、彼らは命がけの戦闘へと参加していく。

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(C)The Call Up Limited 2015

物語の世界観はバーチャル・リアリティ用に開発された『Call of Duty』シリーズ最新作をプレイするようでいて、日本の漫画『GANTZ』からの強い影響が伺える内容になっていた。

ゲームへの強制参加。特殊なスーツ。敵の物理攻撃が現実的にも作用する「夢≒現実」という舞台。個性のバラバラな参加者たち。

このゲームの開発社が「ザイバツ・コープ」という名前であることからも、本作の脚本家で監督でもあるチャールズ・バーカーは日本のサブカルチャーにも関心を持っていることが想像できる。ゲームだと思っていたら、それが途中で辞めることのできないリアルな痛みを伴う現実だとわかった時の参加者の態度などには、あのギレルモ・デル・トロが実写化を望んだとされる『GANTZ』からの強い影響が見て取れる。

というかこれこそが『GANTZ』の実写化としてのあるべき姿だったと思う。

本作は監督チャールズ・バーカーのデビュー作でもあり、有名俳優も出演していない低予算のSF映画だ。物語の舞台はバーチャルとはいえビルの中に限られ、ヘリコプターが大爆発したり、 ド派手なカーチェイスがあるわけでもない。そして本家『GANTZ』のように妖怪や異星人が登場することもなく、現実と近未来とを結ぶ暗渠として仮想空間を設定している。

SF映画としての外形だけを見れば『キューブ』(1997)や『SAW』とよく似ているのは確かだが、「架空だと思われた空間が現実を飲み込んでいく」という物語の流れだけを見た場合、登場人物の心理描写や行動などは『GANTZ』と驚くほどに似通っていく。まったく理解の及ばない誰かの意思によって後戻りの許されないサバイバルゲームに巻き込まれた時、人間はどんな本性を露わにするのか。あるものはただ泣き叫び、あるものは興奮し生を実感するのかもしれない。性格の違いや好き嫌いはあれど、生き残るためには皆が戦わなければならない。

また本作では仮想空間で銃に撃たれてもその傷を癒すことができる注射型のガジェットが登場する。仮に敵に銃で撃たれ同様のダメージが現実的に加わっても、この注射を撃てば治る。しかし参加者ひとりにつき一本だけしか配布されていない。誰かが怪我をすれば自分の注射で治癒させる必要がある。しかし自分が怪我をした場合は仲間は助けてくれるのだろうか。

この設定も『GANTZ』における死者を復活させたり強力な武器を得られる特典と同じく、参加者たちの利己的性格と利他的性格を激しく戦わせる要素になっており、衝撃的なエンディングへの布石となっている。

こうやって『GANTZ』的な設定をことごとくスケールダウンさせた結果、物語のコアという言うべき「理不尽な世界における正しさの価値と脆さ」をたった90分という尺に収めて見せたことは高く評価できる。

本作では登場人物の心理的圧迫にフォーカスすることで非現実的世界のリアリティを描いており、実写版『GANTZ』が原作の世界観をそのまま実写に移植しようとして大失敗したのとは対照的だ。漫画原作のすべてを映像がしようとした実写版『GANTZ』と、そのなかでも重要な要素だけを抽出し拡大した本作。限られた予算内で物語として成立させるためにはどちらが正しい手法だったかは結果を見れば明らかだろう。

一方で登場人物たちのあまりに定石通りすぎる行動は、よく練られたアイデアの足を引っ張る格好になっている。ラストにはアッと驚く展開が待っているだけに、それをさらに活かすためにも登場人物の個性をもっと掘り下げてもらいたかった。

それでもゲームさながらの没入感で、90分という時間があっという間に過ぎていく。低予算のSFアクションとしてはお手本のような作品だった。

『VR ミッション:25』:

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VR ミッション:25
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