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『ウィーナー 懲りない男の選挙ウォーズ』レビュー:選挙はエロとの戦いだというドキュメント!

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情熱的なトークスキルで人気政治家となったアンソニー・ウィーナーだが、見知らぬ女性に性的なメッセージを送る「セクスティング」という性癖がバレてしまったために議員辞職に追いやれる。それでも「聡明な」妻の支えもあり再起をかけてNY市長選に立候補するが、、、そこには驚くべき落とし穴が待っていた!!

『ウィーナー 懲りない男の選挙ウォーズ』

日本公開2017年2月18日/ドキュメンタリー/96分

監督:ジョシュ・クリーグマン、エリース・スタインバーク

出演:アンソニー・ウィーナー、フーマ・アベディン

『ウィーナー 懲りない男の選挙ウォーズ』レビュー

情熱的な演説と弱者に寄り添った政策で人気の高かったアンソニー・ウィーナーは、ヒラリー・クリントンの側近中の側近だったフーマ・アベディンと共に「理想的なカップル」として高い注目度を誇っていた。しかしある日、パンツ一丁の下半身をツイッターで誤送信してしまったことをきっかけに、見知らぬ女性と性的なメッセージや写真を交換する「セクスティング」という性癖が明らかになってしまい、その名声は地下深くまで落ち込んでしまう。そしてとうとう議員辞職にまで追い込まれる。

これまで理想的だった政治家像が反転し、彼の特異な性癖はメディアの格好の餌食となった。

しかしウェイナーはもう一度政治の世界にカムバックすることを決意。妻フーマの支えの中でニューヨーク市長選に立候補するのだった。圧倒的な弁舌で選挙レースを引っ張るウィーナーだったが、そこにはまさかの坂が待ち受けていた。

果たして、ウィーナーはセカンドチャンスを掴み取れるのか?

最大の敵とはエロである!

男のエロの欲求は夫婦関係をこじらすだけでは飽き足りず、時には国家規模の大問題にまで発展してしまうことがある。

本作は2011年のエロメールがきっかけて議員辞職したアンソニー・ウィーナーがセカンドチャンスとして立候補したNY市長選に密着したドキュメンタリーだが、実は最近になってこのアンソニー・ウィーナーのエロメールは再び脚光を浴びることになった。

2016年11月、世紀の番狂わせとも言える大統領選挙でのトランプ勝利に大きく影響したのがヒラリー・クリントンのメール問題。ウィーナーの妻フーマはヒラリーに20年以上仕えていた側近中の側近で、なんとこの変態議員アンソニー・ウィーナーは妻との共用のパソコンからも複数の女性とエロメールを交換し合っていた。しかもその相手には未成年とされる相手もいたためFBIが捜査に乗り出したところ、エロメールよりも重大なヒラリー関連の私用メールが見つかってしまったのだ。

メールの中にはパキスタン系だったユーマの家族がサウジアラビアで経営する企業への不透明な金銭の流れなどが疑われるものがあり、選挙終盤にはとうとう彼女は失踪してしまう。こういった経緯からトランプは「ヒラリーがISと関係している」などと吹聴し、ネガティブキャンペーンの餌食となった。

始まりはいつもエロなのだ。

というのは本作が完成した後の話で、劇中では変態紳士のアンソニー・ウィーナーが過去の挫折をバネにしてニューヨーク市長選に立候補するも、結局はその変態的輪廻の輪から抜け出ることができない変態の業のようなものを描いている。

一般的にアメリカでは「セカンドチャンス」が進んで与えられる。一度失敗したからといって全否定されることは稀で、そこから這い上がることで本当の価値が問われる傾向にある。日本では傷害事件や薬物問題を一度でも起こせば、信頼だけでなく生活基盤さえも失いかねない。こういった罰則性の高さから日本の治安は維持されている側面も否定しないが、例えばロバート・ダウニーJrやマーク・ウォールバーグ、ダニー・トレホなどの過去を見れば、アメリカ社会の寛容さは日本とは比べようがないほどに特出している。

そのため一度はその性癖の暴露によって議員辞職に追い込まれたウィーナーも、過ちを清算することで政治の世界へのカムバックのチャンスが与えられる。もともと人気は高く、その情熱的な弁舌はニューヨークの中流階級やマイノリティから高い指示を受けていた。

しかし2度目はアカン。選挙戦を首位で引っ張るウィーナーだったが、2度目のスキャンダルは彼を完全に見放す結果となった。これまで彼を支え支援してきたスタッフや支持者の視線が冷たい。セカンドチャンスの波に乗って上昇した男にとって、そのチャンスをふいにする2度目のスキャンダルは致命的だった。

しかもそのエロメールの相手はとんでもない女で、ウィーナーとの関係を揶揄するようなポルノに出演したり、彼の選挙事務所に乗り込んできたりする。その一部始終は妻のフーマにも筒抜けなわけで、ウィーナーの居場所は徐々に隅に追いやられていく。当たり前だ。妻に黙ってこっそり継続していたエロメールが、全米中で暴露され、各種テレビ番組でネタにされてしまうのだから、恥ずかしくて仕方ない。

こうやってウィーナーの選挙戦は終わっていく。

選挙はエンタメの是非!

選挙のエンタメ化は日本でも小泉劇場の時に多く指摘された事象だが、本作にはその功罪がはっきりと映し出される。

政治による改革を目指そうとした場合、民衆の関心を得るために為政者は「熱狂」を作り出す必要がある。その過程で選挙戦はエンターテイメントと混じり合う。エンタメ化された選挙を通して人々は日頃の鬱憤を解消し、自分が正義の一部を担っているという錯覚を誘導する必要がある。それはワイドショーや週刊誌での不倫タレントへのバッシングと構造的には何も変わらない。

ウィーナーもまさにエンターテイメントな政治家だった。彼の最初のスキャンダルも彼のエンターテイメント性を高める結果となり、選挙戦への関心を煽ることになった。彼の活躍とはまさにエンターテイメントの土台で繰り広げられる演目と同じ。

不倫叩きが数ヶ月もすれば「飽きる」のと同じように、ウィーナーの選挙戦もエンターテイメント化された時点で、ただ消費されるだけの「まつりごと」と変わらなくなった。劇中で映し出される彼の支持者たちの多くも、結局は「寄っといで、見ておいで」で集まっただけの野次馬でしかなく、だからこそ一度は許せたはずの彼の性癖も2度目は許せなくなる。彼の普遍的な政治的手腕に感心して支持する人は少数で、大多数の支持派は「一度失敗した彼が這い上がる姿をみたい」という心情を所以としいるのだから、この反発は容易に想像できる。エンターテイメントにおいて、同じことの繰り返しは無能の証なのだ。2度失敗した奴の復活は誰も望まない。

ウィーナーの選挙戦もエンターテイメントであるがゆえに争点は政治とは切り離された部分に集中することになる。仮にウィーナーが「政治」や「正義」を実行しようとしても、そこにエンターテイメントとしての価値がなければ誰もついてこない。

2度目のスキャンダルでボロボロになったウィーナーが、同胞ユダヤ人の人種差別的発言に激怒するシーンがある。あらゆる人種を飲み込ニューヨークの市長候補としてウィーナーは言葉を荒げて反論するのだが、すでに選挙戦は極度に品性を失った市民の娯楽と成り下がっていた。どれだけ正論を燃やして抗議してもウィーナーの姿は滑稽でしかない。

SNSの登場で従来よりも自己プロデュース能力が問われるようになった現代では、候補者の実績や実現力よりも、いかにインパクトを残せたかという「印象」の深度によって候補者たちの序列が決まっていく。不用意なSNSによって没落したウィーナーと、過激なツイッターを駆使して当選したトランプ。もはや選挙とは政治的手腕を見極めるためのプロセスではなく、徐々にキャラクターの本心が暴かれていく「リアリティ・ショー」の覗き見程度の意味しかないのかもしれない。

『ウィーナー 懲りない男の選挙ウォーズ』:

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ウィーナー 懲りない男の選挙ウォーズ
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